Cygamesが、『ウマ娘 プリティーダービー』英語版におけるキャラクターの方言・口調のローカライズ手法を、CEDEC2026で詳しく紹介した。7月24日のセッションには、ローカライゼーション部の英語翻訳者カトレル アリソン氏と、英語コーディネーター森田竜平氏が登壇している。
英語版チームが重視しているのは、単純に日本語の方言を英語圏の特定地域へ置き換えることではない。「Recognizability(一目でそのキャラクターだと分かること)」と「Authenticity(本物らしさ)」を軸に、キャラクターごとに異なる方法で“話し方のシルエット”を再構成しているという。
クイックサマリー
- タイトル: ウマ娘 プリティーダービー
- 開発・運営: Cygames
- テーマ: 英語版ローカライズ
- イベント: CEDEC2026
- 講演日: 2026年7月24日
- 会場: パシフィコ横浜 ノース / オンライン
- 形式: ショートセッション
- 時間: 25分
- 登壇者: カトレル アリソン
- 役職: Cygames ローカライゼーション部 英語翻訳者
- 登壇者: 森田竜平
- 役職: Cygames ローカライゼーション部 英語コーディネーター
- 英語版スライド公開: 2026年8月
- 主なテーマ: 方言、特徴的な口調、キャラクター性、翻訳の一貫性
- 軸となる考え方: Recognizability / Authenticity
- タマモクロス: 関西弁を単純に米国南部訛りへ置換しない
- 背景: タイキシャトルの米国出身という個性との重複を避ける
- 表現手法: スペル、リズム、テンポ、セリフの形
- ユキノビジン: あえて少し古い英語表現を採用
- 参考年代: 1930~1960年代
- アグネスデジタル: 英語圏のオタク・ファンダムで実際に使われる表現を参照
- ダイタクヘリオス: ギャル文化の“平行文化”としてGen Zを採用
- 例: “Let her cook”
- 狙い: ヘリオス特有の勢い、ノリ、距離感、スラング感を再現
- 担当制: キャラクターや文化への知識を踏まえて担当者を配置
- チーム内コミュニケーション: Slack
- アイデア例: “Umazing!”
- 品質維持: キャラクター別口調ガイド・スタイルガイドを作成
- チェック: 言語品質管理チームが確認
- 目的: 担当者が変わっても口調を安定させる
- 重要: 『ウマ娘』全体を「Gen Z向け」に変えたという説明ではない
- Gen Z: ダイタクヘリオスのギャル語に対する個別のローカライズ例
- Merry Christmas → Happy Holidays: 本講演の事例ではない
- ミホノブルボン Master → Trainer: 本講演の事例ではない
- 恋愛描写を弱めたという主張: 本講演では説明されていない
CEDEC2026講演、英語版スライド

日本の方言を“英語圏の地域”へ機械的に当てはめない
『ウマ娘』英語版で難題となるのが、キャラクターごとに大きく異なる話し方だ。
地方の方言だけでなく、一人称、語尾、敬語の強弱、話すテンポ、流行語などもキャラクター性に直結している。
講演で例として挙げられたのがタマモクロス。
関西弁を英語へローカライズする場合、分かりやすい地域訛りとして米国南部風の英語を割り当てる方法も考えられる。
しかし『ウマ娘』には、すでにアメリカ出身というバックグラウンドを強く持つタイキシャトルがいる。
タマモに具体的な米国地域のイメージを付けると、もともと異なるふたりのキャラクター性が重なってしまう。
そこで英語版では、特定地域のアクセントをそのままコピーするのではなく、スペルの崩し方、話すリズム、テンポ、短縮表現などを利用。
「関西=英語圏の○○地方」と定義するのではなく、“標準的な話し方とは明らかに違うタマモらしさ”を残す方向が選ばれた。
ユキノビジンは“少し古い英語”で素朴さを表現
ユキノビジンでは、また別の方法が取られている。
岩手出身で、都会に来ても故郷の方言や素朴な雰囲気を残しているキャラクターだ。
英語版チームは、それを特定の米国・英国地方へ直接置き換えなかった。
代わりに利用したのがWord Choice。
1930年代から1960年代あたりに見られる、現代ではやや古風に感じる英語表現やスラングを取り入れることで、ほかのウマ娘とは少し異なる素朴さを作っている。
日本の地方出身キャラクターへ、本来存在しない西洋の出身地を付与せずに差を作るための選択だ。
同時に、方言キャラクターだからといって全員に同じローカライズ手法を使わないことも分かる。
タマモクロスではスペルとリズム、ユキノビジンでは語彙の年代感が、それぞれ主要な手段になっている。
アグネスデジタルは英語圏オタクの“実際のノリ”を参考に
アグネスデジタルの場合、課題は地域方言よりもオタク文化にある。
デジタルの日本語には、推しを前にしたオタク特有のテンションや言い回しが強く表れている。
英語版では、単純に感嘆符を増やしてテンションを上げるだけでは不十分と判断。
英語圏のアニメファンやオンライン・ファンダムが、好きなキャラクターについて盛り上がる際に実際に使っている表現を参考にした。
Cygamesが講演でいう「Authenticity」は、ここでは単語を一対一で置き換えることではなく、「英語圏のファンダムに本当にいそうな話し方」にすることを意味している。
また、こうしたキャラクターについては、その文化に詳しいメンバーを初期翻訳へ配置するなど、翻訳者の知識や得意分野も担当決めに活用されている。
ダイタクヘリオスのギャル語は“Gen Z”を平行文化に
今回もっともSNSで拡散されているのが、ダイタクヘリオスの事例だ。
ヘリオスは日本語版で、ギャル文化由来のスラング、略語、流行表現を大量に使う。
Cygamesは講演資料で、ギャル文化そのものは日本国外で必ずしも広く知られていないことを課題として挙げている。
そこで、英語圏で似たコミュニケーション上の役割を果たせる“平行文化”を探し、Gen Zの言葉遣いを採用した。
例として紹介されたのが“Let her cook”。
誰かの発言や行動を「そのまま続けさせてみよう」というニュアンスで使われる現代的なネットスラングだ。
こうした表現によって、ヘリオスのテンションの高さ、流行への敏感さ、誰にでも一気に距離を詰める感覚、周囲が一瞬ついていけなくなるほどの勢いを英語でも表現しようとしている。
ただし、ここで注意したいのは範囲だ。
Cygamesは『ウマ娘』全体をGen Z向けへ書き換えたと説明しているわけではない。
Gen Zは、あくまでダイタクヘリオスのギャル語を英語圏で機能させるために選ばれた個別の方法として紹介されている。
“Umazing!”もSlackのアイデア共有から誕生
講演後半では、翻訳アイデアをチーム内でどう共有し、一貫性を維持するかについても説明された。
キャラクター担当は、メンバーの知識や興味も考慮して割り振られる。
オタク文化に詳しい人をアグネスデジタルに配置する、といった考え方だ。
さらにローカライゼーションチームではSlackを活用。
正式な業務連絡だけではなく、「これ面白いのでは?」という軽いアイデアも共有できる環境を作り、そこから使える表現を拾い上げている。
講演では、その一例として“Umazing!”が紹介された。
“Uma”と“amazing”を掛け合わせた表現で、英語版プレイヤーの間でも知られる言葉のひとつとなった。
ただし、アイデアを考えた担当者だけがその使い方を知っていては長期運営で困る。
そのためキャラクターごとに口調ガイドラインやスタイルガイドを作成し、言語品質管理チームのチェックも経て、別の翻訳者でも同じ方向性を再現できる体制を構築している。
SNSで拡散された話とCEDEC講演の内容は分けて見る必要がある
スライドが再び話題になったことで、SNSではこれまで英語版をめぐって議論されてきた別の事例も、CEDEC講演とひとまとめに語られている。
代表的なのが、“Merry Christmas”を“Happy Holidays”とした例、ミホノブルボンの“Master”を“Trainer”とした例、恋愛的なニュアンスを弱めているという主張などだ。
ただし重要なのは、これら3点は今回のCEDEC2026講演で扱われたケーススタディではないこと。
公式資料の中心は、タマモクロス、ユキノビジン、アグネスデジタル、ダイタクヘリオス、担当制、Slack、ガイドライン運用などとなっている。
英語版に存在するそのほかの表現差について検証することはできるものの、その変更理由までヘリオスのGen Zスライドから推測することはできない。
そのため、このCEDEC講演を「Christmasを消した理由の説明」や「恋愛描写を削る方針の告白」と表現するのは、公式プレゼンが実際に扱った範囲を超えてしまう。
今回Cygamesが説明したのは、日本語特有の方言やサブカルチャー的な口調を、英語でどう“そのキャラらしく”見せるかという制作手法だ。
注目ポイント
1)ローカライズをキャラクターデザインの一部として扱う
文章の基本的な意味だけではなく、リズム、スラング、語彙、社会的背景まで含めてキャラクター性を設計している。
2)方言を西洋の地域へ安易に置き換えない
タマモクロスでは「日本の地方=米国の地方」という単純な対応を避け、スペルやテンポで差を作った。
3)ヘリオスは文化置換の分かりやすい事例
ギャルとGen Zは同じ文化ではない。そのうえで、英語圏のプレイヤーに似た“機能”を感じさせる文化としてGen Zが選ばれている。
4)担当者が変わっても声を維持する仕組みがある
担当制、Slack、口調ガイド、品質チェックを組み合わせ、長期運営でキャラクターの声がぶれないようにしている。
ゲーム・ローカライズ情報
現時点で確認できる追加情報は以下の通り。
- 『ウマ娘 プリティーダービー』はCygamesが開発・運営
- 英語版にはCygames社内のローカライゼーションチームが参加
- CEDEC2026講演は2026年7月24日に実施
- セッション分野はGame Design
- 関連テーマはストーリーテリング、ローカライズ
- 登壇者はカトレル アリソン氏、森田竜平氏
- アリソン氏はローカライゼーション部の英語翻訳者
- 森田氏は英語コーディネーター
- 講演ではRecognizabilityとAuthenticityを軸として紹介
- タマモクロスは特定地域のアクセントではなくスペルやリズムを活用
- ユキノビジンは少し古い英語表現を採用
- アグネスデジタルは英語圏のファンダム・オタク文化を参考
- ダイタクヘリオスはギャル文化の平行文化としてGen Zを採用
- “Let her cook”が具体例のひとつ
- キャラクター担当はメンバーの知識や適性も考慮
- Slackをアイデア共有に使用
- “Umazing!”も内部コミュニケーションから生まれた表現として紹介
- 口調ガイド・スタイルガイドを用意
- 言語品質管理チームによる確認も実施
- CEDEC後に英語版講演スライドが公開された
- グローバル版の情報は『Umamusume: Pretty Derby』公式サイトで確認可能
- PC版はSteam『Umamusume: Pretty Derby』で配信
- 講演概要はCEDEC2026公式ページに掲載
- 英語版スライドはCygames公式Speaker Deckで公開されている
まとめ
CEDEC2026で公開された事例を見ると、『ウマ娘』英語版ではキャラクターごとに異なる手段を選んでいることが分かる。タマモクロスはスペルとリズム、ユキノビジンは古めの語彙、アグネスデジタルはファンダム文化、ダイタクヘリオスはギャル語の機能を伝えるためにGen Zのスラングが使われている。
同時に、資料の文脈を切り分けることも重要だ。Cygamesがゲーム全体をGen Z向けに変更したという説明ではなく、SNSで一緒に語られている一部のローカライズ論争も本講演の事例ではない。今回のテーマはあくまで、日本語で強く作り込まれた“話し方の個性”を、英語圏のプレイヤーにも認識できる形でどう再構成するか、というものだった。
- Cygames Speaker Deck — Official CEDEC2026 English Presentation on Umamusume Character Dialects and Unique Speech
- Cygames Conference Info X — Official English Slide Release Announcement for the CEDEC2026 Session
- CEDEC2026 — Official Session Description, Speakers, Roles, Localization Goals, and Schedule
- GAME Watch — CEDEC2026 Session Report Covering Tamamo Cross, Yukino Bijin, Agnes Digital, Daitaku Helios, and Team Workflow
- Umamusume: Pretty Derby — Official Global Game Website
- Steam — Official Umamusume: Pretty Derby PC Store Page and Game Information